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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)743号 判決

原告 高山重任

被告 住吉税務署長

訴訟代理人 上原洋允 宗宮英俊 大河原延房 ほか三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告住吉税務署長(以下被告署長という。)が原告に対して昭和四一年一一月一七日付でした原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を一、二五一、九〇〇円とする更正のうち三五〇、〇〇〇円を超える部分を取り消す。

2  被告大阪国税局長(以下被告局長という。)が原告に対して昭和四三年四月二六日付でした右更正に対する審査請求を棄却した裁決を取り消す。

3  被告国は、原告に対し、五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年一〇月二三日から支払いずみで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに3項につき仮執行の宣言

二  被告ら

主文と同旨の判決並びに被告国に対する請求について仮執行の宣言が付される場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、クリーニング業を営む者であるが、昭和四一年三月一一日被告署長に対し、白色申告で昭和四〇年分所得税について総所得金額を三五〇、〇〇〇円とする確定申告をしたところ、被告署長は、昭和四一年一一月一七日付で右総所得金額を一、二五一、九〇〇円とする更正(以下本件処分という。)をした。

原告は、これを不服として同年一二月一三日被告署長に対し異議申立てをしたが昭和四二年二月八日棄却されたので、同年三月八日被告局長に対し審査請求をしたところ、被告局長は、昭和四三年四月二六日付でこれを棄却する旨の裁決をした。

2  しかし、被告署長がした本件処分には、次の違法がある。

(一) 本件処分の通知書には、理由の記載が全くない。これは、不服審査制度における争点主義に反する。

(二) 本件処分は、原告の生活と営業を不当に妨害するような方法による調査に基づくものであり、かつ原告が住吉商工会並びに大阪商工団体連合会の会員であることを理由に他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企図してされたものである。

(三) 原告の昭和四〇年分の総所得金額は、三五〇、〇〇〇円であるから、本件処分には、原告の所得を過大に認定した違法がある。

3  被告局長は、原告の前記審査請求に対し、速かに裁決すべきであり、またそれができたのに、故意にこれを遅延させ、一年間も放置して、原告の簡易迅速に行政救済を受ける権利を違法に侵害した。またその間、原告は、被告署長から電話加入権を差し押えられて長期間にわたり右財産の利用を妨害された。原告は、これらにより有形無形の損害を受けたが、これを金銭的に評価すれば五〇、〇〇〇円を下らない。

したがつて、被告国は、国家賠償法一条一項に基づき、原告に対して右損害金とこれに対する不法行為後の昭和四三年一〇月二三日から右支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

4  よつて、原告は、被告らに対し、それぞれ請求の趣旨の判決を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、本件処分の通知書に理由の記載がないことは認めその余は争う。

3  同3のうち、被告局長が原告の審査請求に対し約一年後に裁決したこと、被告署長が原告の電話加入権を差し押えたことは認め、その余は争う。

三  被告署長の主張

1  住吉税務署職員が昭和四一年七月一六日昭和四〇年分所得税の調査のため原告の店舗に赴き原告と面接したところ、原告は、売上伝票は記入していたが現在保管していないと述べて帳簿類を提示しないばかりか、同職員の質問に対し、雇人、機械設備、車両運搬具、得意先等の状況について答えただけで、売上、仕入関係については答えなかつた。そのため、被告署長は、原告の昭和四〇年分の所得金額を実額で把握できなかつたので、原告と同種の事業を営む納税者の実積から従事員数、設備の状況等を比較のうえ売上金額を推計し、一般経費は同業者の平均的な一般経費率を適用し、特別経費は、原告から聴取したところにより計算して、所得金額を算出したところ、原告の申告額と相違したので本件処分をしたのである。

2  所得金額

原告の昭和四〇年分の所得金額及びその内訳は、

収入金額 四、三九七、〇四〇円

一般経費 一、五二六、六五二円

特別経費 一、三七五、〇〇〇円

所得金額 一、四九五、三八八円

であり各科目の算出方法は、次のとおりである。

(一) 収入金額、一般経費

前記1で述べたように、被告署長は、原告の昭和四〇年分の所得金額を実額で把握することができなかつたので、大阪国税局長が同局管内八三税務署のうち大蔵省組織規程上種別「A」とされている税務署四六署管内のクリーニング業者について昭和四〇年分所得税の実額調査を行なつた事例(以下実調資料という。)を収集整理して得た従事員一人当りの収入金額及び所得率の平均値を原告に適用して推計する。すなわち、右の各平均値は、別表一のとおり従事員一人当りの収入金額が七八八、〇〇〇円であり、所得率が六五・二八パーセントである。ところで、原告の昭和四〇年の従事員の内訳及び従事期間は別表二のとおりである(原告の妻鈴子については年間稼働日数を六か月とする。)から、年間従事実人員の合計は、五・五八人となる。したがつて、原告の同年分の収入金額は、右従事員一人当りの平均収入金額に原告の年間従事実人員を乗ずると、四、三九七、〇四〇円となり、原告の同年分の一般経費は、右収入金額に前記平均所得率から算出した一般経費率三四・七二パーセント(一-所得率)を乗ずると一、五二六、六五二円となる。

なお、訴外高山頌敏の従事期間についての原告の自白の撤回に異議があるが、仮に同人が原告主張のとおり入院していたとすると、同人の従事期間は、一〇か月であるから、同人の年間従事実人員は、〇・八三人と計算されることになり、原告の年間従事実人員は、五・四一人となる。したがつて、収入金額及び一般経費は、前記の方法で計算すると、それぞれ四、二六三、〇八〇円、一、四八〇、一四二円となる。

(二) 特別経費

原告が雇人に支払つた給与、年末手当、食費の合計金額であり、その内訳は、別表二のとおりである。

なお、仮に高山頌敏が原告主張のとおり入院していたとすると、原告が高山頌敏に対し右期間給与を支払つたとしても、それは、原告と高山頌敏との関係が兄弟であることから入院中の生活費の扶助のため、すなわち家事上の目的で支給したものであり、家事上の経費であつて事業上の経費とはならない。したがつて、入院中の給与二か月分六〇、〇〇〇円は、前記特別経費から控除すべきである。

(三) 総所得金額

収入金額-(一般経費+特別経費)=所得金額の算式で計算すると、一、四九五、三八八円(高山頌敏が原告主張のとおり入院していたときは、一、四六七、九三八円)となる。

3  右推計方法は、次の点からみて合理的である。

(一) 実調資料は、青色申告者については実地調査を、白色申告者については収支実額調査をそれぞれ行なつたもののうち、年の中途で開廃業したもの、他の業種を兼業してこれの区分計算ができないものなど特殊事情を有する納税者を除きその余の全部を収集したものであつて、資料の収集過程にはなんらの恣意も入つていず、また一般的な率により推計したものあるいは不服申立てないし訴訟係属中のものは全部除外されているもので、個々の資料の内容について納税者が異議なく正当性を承認している。

(二) 実調資料を収集したいわゆるA級税務署は、主として大阪、京都、神戸の各市内とその近郊都市及び県庁所在地を管轄する規模の大きい税務署であるから、ここで収集された資料は、原告と同じく都会地の業者の資料である。また対象者は、事業規模及び営業形態において多様性をもつ法人企業を除いた個人経営者のみに限られている。したがつて、実調資料により得られた結果は、多数のクリーニング業者の地域、営業規模の多様性等の個別的特性が包摂され平均化されている。

(三) また実調資料の五九例の従事員数と収入金額との間及び収入金額と特別経費控除前の所得金額との間には、いずれも高度の平行関係がある。

4  よつて、原告の昭和四〇年分の総所得金額は、高山頌敏の入院の有無にかかわりなく本件処分の総所得金額一、二五一、九〇〇円を上回るから、本件処分には、所得過大認定の違法はない。

三  被告署長の主張に対する原告の答弁

1  被告署長の主張1のうち、住吉税務署職員が昭和四一年七月一六日税務調査のため原告方を訪れたことは認め、その余は否認する。

2  所得金額について

(一) 収入金額、一般経費並びにその推計の必要性及び合理性は争う。

原告のようなクリーニング業者は、大阪府下に二、一五一名、住吉区内に八〇名もいるのに、実調資料の同業者は五九名、住吉区内の同業者は一名にすぎない。また実調資料は、同業者の営業規模、立地条件、従事員の数、能力、信用について何ら考慮していないものであるから、原告との類似性が明らかでない。したがつてこのような実調資料に基づく推計には何らの合理性がない。

しかも、本件処分は、昭和四一年一一月一七日付でされたのに、実調資料は、昭和四四年一月に調査して得られたものである。したがつて、実調資料は、本件処分の根拠とされておらず、本件訴訟提起後に被告らが訴訟資料として提出するためにのみ調査収集して得られたものであるから、事後調査資料でありて、これを本件処分の所得金額認定の資料とすることは違法不当である。

よつて、実調資料に基づく推計は、合理性がない。

(二) 別表二の従事員、従事期間、実人員数

訴外高山頌敏を除き、認める。同人についても原告は第一九回口頭弁論期日にその従事期間を認めたが、右自白は真実に反し錯誤に基づくものであるから、これを徹回する。高山頌敏は、昭和四〇年一月八日から同年二月二〇日まで網膜剥離症のため大阪府立病院に入院して手術を受け、その後同年六月六日まで通院、自宅療養していたから、右期間は、稼働できなかつた。したがつて、高山頌敏は、従事員数としては、〇・五人として計算すべきである。

(三) 特別経費

イ 給与

被告署長の主張額は認める。なお、原告は高山頌敏に対しその実兄として入院期間中も生活保障のため給与を支給したから、これも給与に含まれる。

ロ 食費

少くとも従事員一人当り月額五、〇〇〇円であり、住込雇人以外の雇人に対してもすべて支給した。

ハ 年末一時金

被告署長主張のほかに、原告は、橘健一に対し一時金一五、〇〇〇円を支給した。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件処分の適否について

1  手続上の瑕疵について

(一)  原告が白色申告者であることは、当事者間に争いがない。したがつて、白色申告者に対しては、更正の理由附記の必要がないから、本件処分の通知書に理由の記載がなくても違法ではない。

(二)  調査方法が違法、不当であるとの点及び被告署長が商工会の組織の弱体化を企図して差別的に本件処分をしたとの点については、これを認めるに足りる証拠がない。

2  所得金額について

(一)  収入金額、一般経費

(1) 被告署長は、原告の昭和四〇年分の収入金額、一般経費を推計によつて算出している。そこで、まず推計の必要性及びその合理性について検討する。

イ 推計の必要性

〈証拠省略〉の結果、弁論の全趣旨によると、原告は、昭和四〇年当時の営業についてメモ程度の帳簿や注文の控え、領収の控え、預り証を記帳、保存していたが、住吉税務署職員及び大阪国税局職員の各調査(住吉税務署職員が原告方に調査にきたことは当事者間に争いがない。)に際し、右帳簿書類等を一切提示しなかつたことが認められ、また、原告は、本件訴訟においても、昭和四〇年分の所得金額を明らかにしうる資料を提出しない。そうすると、被告署長は、昭和四〇年分の所得金額を推計によつて算定する必要があるものといわなければならない。

ロ 推計の合理性

被告署長が主張する推計方法は、実調資料によつて得られた同業者の従事員一人当りの平均収入金額を原告の従事員数に乗じて収入金額を算出し、更に右収入金額に実調資料によつて得られた同業者の平均一般経費率を乗ずることによつて一般経費を算出するというものである。

〈証拠省略〉によると、実調資料は、被告署長主張のような方法で大阪国税局管内A級税務署四六署から収集、整理されたものであつて、その結果は、別表一に示すとおりであること、実調資料は、被告署長主張の条件に合致するものすべてを収集したものであつて、資料の選定、取捨選択に何らの恣意も入つていないものであり、すべてが実額調査に基づくことが認められる。

右事実によると、実調資料は、実額調査に基づく正確性が高いものであり、資料収集の方法に鑑みれば、多数のクリーニング業者の地域、営業規模の多様性等の個別的特性は包摂され、平均化されているとみることができ、別表一を検討してみると、従事員数と収入金額との間及び収入金額と特別経費(同表では標準外経費)控除前の所得金額との間にいずれも平行関係が認められるから、実調資料によつて得られた結果を適用して原告の所得を推計することは、特段の事情がない限り合理性があるということができる。

ところで、原告は、実調資料の収集件数が少ないこと、住吉区の事例が一件しかないこと、同業者及び原告の営業上の諸事情を考慮していないから、実調資料に基づく推計方法は、不合理である旨主張する。しかしながら、実調資料は、大阪国税局長が推計の基礎となりうるための条件を設定し、右条件を充たすものすべてを収集したものであり、五九例という数は、クリーニング業者の平均的な所得を算出するための資料として過少なものといえない。また、住吉区の事例は一例しかないが、前記認定事実によると、これは、同区を管轄する住吉税務署管内には前記条件を充たすものが一例しかなかつたからであり、住吉税務署は、他のA級税務署と同様都会地を管轄する税務署であるから、住吉区の都会地としての一般事情は、実調資料によつて十分反映されているということができる。そして、他に住吉区に他と異なる特殊事情があること及び原告に他の業者と異なる特殊事情があることを認めるに足りる証拠はない。

また、原告は、実調資料は、本件処分後に収集されたものであるから、原告の所得認定の資料とすることは許されない旨主張する。なるほど、前記乙号各証によると、実調資料は、税務訴訟に使用する目的で昭和四四年一月に収集されたものであることが認められるから、本件処分後に収集されたことは明らかであるが、課税処分後にその取消訴訟における所得立証のための資料を収集することを違法とすべき理由はなく、これを所得認定の資料とすることが許されないとするいわれもない。

(2) 従事員

昭和四〇年の原告の従事員、その従事期間及び従事実人員数は、高山順敏の従事期間(したがつてその実人員数への換算)を除き当事者間に争いがない。なお、同人の従事期間は本件訴訟においては間接事実にすぎないから、この点についての原告の自白には拘束力がない。

〈証拠省略〉の結果、弁論の全趣旨によると、高山碩敏は、網膜剥離症のため、昭和四〇年一月八日から同年二月二〇日まで大阪府立病院に入院し、手術を受けたこと、退院後同年六月六日まで通院療養していたことが認められる。右事実によると、高山頌敏は、右入院中稼働できなかつたのは当然ながら、退院後も通院期間中は病気及び仕事の性質上一人分の稼働時間の労働は不可能であつたとみるべきであり、弁論の全趣旨に照らすと、その期間の稼働時間は一般従事員の半升程度と認めるのが相当であるから、高山頌敏は年間従事実人員としては、〇・七三人(少数点三位以下切捨て)となる。

{12-24/31-20/28-(8/28+3+30/6)×1/2}÷12 = 0.73

そうすると原告の年間従事実人員は五二三人である。

(3) 収入金額及び一般経費の計算

別表一によると、昭和四〇年のクリーニング業従事員一人当りの平均収入金額は七八八、〇〇〇円であり、平均所得率は六五・二八パーセントであるから、これによつて原告の同年分の収入金額及び一般経費を計算すると、次のとおりとなる。

収入金額=七八八、〇〇〇円×五・三一=四、一八四、二八〇円

一般経費=四、一八四、二八〇円×(一-〇・六五二八)=一、四五二、七八二円(円未満切捨て)

(二)  特別経費(雇人費)

(1) 給与

原告が高山頌敏以外の雇人に対して支払つた給与額は、当事者間に争いがない。

高山頌敏が昭和四〇年一月八日から同年二月二〇日までの間入院していて稼働できなかつたことは、前記認定のとおりであるが、原告は、高山頌敏に対しその実兄として生活保障のため右期間の給与を支給したから、これを経費に算入すべきである旨主張する。

〈証拠省略〉の結果によると、原告の雇人橘健一は、昭和四〇年は一月から稼働していたが、七月以降は胃の手術のため入院して稼働せず、その間は社会保険金の給付を受けていたことから、原告は、橘健一に対してその間の給与を支給しなかつたこと、高山頌敏も同様に入院中社会保険金の給付を受けたが、原告は、兄弟という関係から生活費としての意味合いで給与を支給していたことが認められる。右事実によると、原告が高山頌敏に対して入院中支払つた金員は、労働の対価としてのものではなく、高山頌敏に対する生活扶助としてのものとみるべきであるから、事業上の経費とは認められない。

したがつて、高山頌敏に対する給与(月額三〇、〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。)は、一〇・五か月(12-24/31-20/28 = 10.5)分三一五、〇〇〇円となるから、全雇人に対する給与合計額は一、一七五、〇〇〇円である。

(2) 食費

〈証拠省略〉の結果、弁論の全趣旨によると、原告は、すべての雇人に対して月五、〇〇〇円相当の食事を支給していたことが認められる。そうすると、原告が全雇人に支払つた食費合計額は、二三七、五〇〇円である(高山頌敏に対する食費は、前記(1)で述べたと同様の理由で一〇・五か月分である。)。

(3) 年末一時金

原告が橘健一以外の雇人(スケは除く。)に対して支払つた年末一時金額は、当事者間に争いがない。

原告は、橘健一に対しても年末一時金を支給した旨主張する。しかし、橘健一が昭和四〇年七月以降胃の手術のため入院していて、その間給与の支給を受けていないことは、前記認定のとおりであるから、このような場合、特段の事情のない限り、原告が年末一時金を支給したとは考えられないし、年末一時金を支給したことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、年末一時金は、六〇、〇〇〇円である。

(4) 特別経費合計額 一、四七二、五〇〇円

(三)  総所得金額

収入金額、一般経費、特別経費が前記のとおりであるから、総所得金額は、一、二五八、九九八円となる。したがつて、本件処分には所得過大認定の違法がないから、原告の被告署長に対する請求は、理由がない。

三  裁決取消請求について

原告は、被告局長に対する裁決取消請求について固有の違法事由を主張しないから、右請求は、理由がない。

四  被告国に対する請求について

原告が昭和四二年三月八日被告局長に審査請求をし、被告局長が昭和四三年四月二六日右請求を棄却する旨の裁決をしたことは、当事者間に争いがない。右事実によると、審査請求の日から裁決まで一年一か月余りを要したことになるが、この程度の期間を要したとしても、直ちに原告の速やかな行政救済を受ける権利が侵害されたとはいえない。また、本件処分が違法といえないことは、前示のとおりであるから、被告署長による原告の電話加入権の差押え(この事実は、当事者間に争いがない。)が違法ということもできない。したがつて、原告の被告国に対する請求は、理由がない。

五  結論

以上の次第で、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 増井和男 春日通良)

別表〈省略〉

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